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日英の口の可動域

前回の記事で、慶應の堀田先生のheldioに参加させていただいたことに触れました。

慶應義塾の堀田先生、目白大学の五所さん、上智大学の小河さんと共に名前について議論していたはずが、英語の発音の話に広がりました。その関連で、口の可動域の話題を提供します。


私は常日頃から日本語と英語を発音する際の、口の可動域について意識しており、海外での学会発表の前などは必ずシャドーイングなどで口を英語に慣らす練習をしておきます。吹奏楽などの楽器を演奏する方も、普段から口を慣らしておくと思うのですが、それと一緒で英語を話すときに使う筋肉は日本語とは違うので、いきなり喋ろうとすると、思考よりも口がまず物理的に動かないといった問題に直面します。


日英語の母音を出すときの舌の位置を示したのが以下の図です。図の左側が口の前、右が口の奥の方といった具合に舌の位置を視覚的に示してくれています。例えば、英語の /i:/ と日本語のイは音色がかなり似ているのに対して、英語の /ɔ:/ は日本語のオよりもかなり口の奥の方から発音されることがわかります。これを日英それぞれ外枠だけ線で結んでみると、日英の口の可動域が大きく異なることが実感できると思います。(今回はアメリカ英語の発音に準拠)


ちなみに私は音声学の専門家というわけではありませんので、「可動域」という表現が正しいかは分かりませんが、舌を大きく動かすということは、筋肉を使って口を緊張させることでもあり、体感的に理解はしていただけるのではと思います。


私の授業ではこの表を見せながら、そもそも日本語と同じ感覚で英語を発音することはできないし、日本語を知らないネイティブスピーカーが聞く際に、誤解の原因になってしまう可能性について説明します。私は実戦主義なので、あまり頭で考えるよりも、とりあえず英語は喋ってみるということを推奨していますが、日英語の音はそもそも全く別物である、という前提を共有してもらうにはよい題材ではないかと思います。


ちなみに、母音だけでもこれほど違いがあり、子音ともなってくるともっと日英語の発音の「溝」は深いですので、参考文献に挙げております今井先生の著書をぜひ手に取っていただければと思います。


今井邦彦(2007: 2)一部改変


参考文献

・今井邦彦(2007)『ファンダメンタル音声学』ひつじ書房

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